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東京高等裁判所 平成3年(行コ)33号 判決

控訴人 市川幸雄

同 市川静江

右両名訴訟代理人弁護士 宮里邦雄

同 小野幸治

被控訴人 世田谷税務署長 小林三郎

右指定代理人 開山憲一 外四名

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人両名代理人らは、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和六三年六月二九日付けでした控訴人市川幸雄の昭和六一年分の所得税の更正処分のうち納付すべき税額三九四二万一〇〇〇円を超える部分及び被控訴人が同日付けでした同控訴人の同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定のうち過少申告加算税額四八万七四〇〇円を超える部分を取り消す。被控訴人が昭和六三年六月二九日付けでした控訴人市川静江の昭和六一年分の所得税の更正処分のうち納付すべき税額九九〇万〇八〇〇円を超える部分及び被控訴人が同日付けでした同控訴人の同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人らは控訴棄却の判決を求めた。

本件事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」に摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一  原判決五枚目表一一行目末尾の次に「そもそも、法人税法の適用対象となる営利法人は、会社法の規制を受け、会社は定款に定められた目的の範囲内で権利能力を有するものと解されるところ、取締役の責任などに関する商法上の制約から、会社が無制限、無定量に寄付金を支出することは実際上不可能である。また、課税実務上も、いわゆる同族会社等の小規模法人がなす寄付については、会社の規模、寄付の相手方、目的等によってはその役員等個人の寄付と認定する場合があり、会社の経営実態に即した課税がなされているところであって、法人であっても個人とさして変わらない小規模会社が多いことをもって法人と個人の課税上の区別を不公平であるということはできない。」を加える。

二  同五枚目裏四行目の「そして、」の次に「累進課税制度を採る所得税法の下にあっては、」を加える。

三  同六枚目裏一行目の「特質」から同行末尾までを「特質に応じて、寄付金の取扱いに制約を設けているのである。」に改める。

四  同六枚目裏七行目末尾の次に行を変えて「そして、控訴人の主張するいわゆる「厳格な合理性の基準」(後記3(四))も、主として経済的自由に対する警察的、消極的規制の場合に問題とされているものであって、本件のごとき租税法の規律する領域において妥当するものではない。」を加える。

五  同七枚目裏七行目末尾の次に行を変えて「わが国においては、形式上法人格を取得していても、実質上は個人と変わらないものが多く、課税上、個人と法人を区別する根拠はない。また、比較法的にみても、例えば、アメリカでは、連邦、州政府等の公共団体、教会、一定の学校、病院等の特に公益性の強い団体に対する寄付金について、個人の場合は調整総所得(必要経費控除後の所得)の五〇パーセントを限度として所得控除され法人の場合は課税所得の一〇パーセントを限度として損金算入が認められることとなっており、個人の場合にも法人以上に寄付金控除が認められているのであって、また、旧西ドイツ、スウェーデン、オーストラリア、フランス等においても、特定の寄付金控除の扱いは、個人と法人で同一であり、イタリアにおいては、国、公共機関に対する寄付金は個人においても、法人と同様に全額を所得控除することが認められている。」を加える。

(証拠関係)〈省略〉

理由

一  当裁判所も、国又は地方公共団体に対する寄付金について、所得税法七八条と法人税法三七条が、その主体が個人である場合と法人である場合とで異なった取扱いをしていることには、一応の正当な理由があり、かつ、右各規定において採用された取扱いの区別の態様が右理由との関連で著しく不合理なものであることが明らかであるとも認められないから、所得税法七八条の規定は憲法一四条一項、八四条に違反するものではなく、控訴人らの本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」に摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1  原判決九枚目裏一〇行目の「及び」を「又は」に改め、同一一行目の「ことには、」の次に「税務行政上の問題を措いても、」を、同一〇枚目表二行目の「所得の」の次に「任意」をそれぞれ加え、同四行目の「理論的」を削り、同五行目の「(二)」の次に「仮に、国又は地方公共団体に対する寄付金について所得控除制度を設けると、所得税法が累進課税の制度を採っていることとの関係で、」を加える。

2  同一〇枚目表一一行目の「して」の次に「(昭和四八年度改正において控除限度が所得の一五パーセントから二五パーセントに引き上げられた。)」を、同裏三行目末尾の次に行を変えて「なお、〈書証番号略〉によれば、控訴人が前記二争点の3(三)において摘示する諸外国においては、公益的な目的を有する寄付金につき、個人についても一定の限度で所得控除を認める例が多く、わが国のような法人の寄付金支出に対する特別の取扱いを採用している例はないことが認められるのであるが、各国の税制は、各国の政治的、社会的、経済的条件を背景とし、また、それぞれの税制上の沿革によって形成されてきたものであって、わが国においても、右諸外国の税制等をも考慮しつつ法人税法三七条の規定のあり方について検討を加えるべきであるという議論があり得るとしても、他の国の右のような税制上のあり方から、直ちに、所得税法七八条と法人税法三七条が個人と法人とで異なった取扱いをしていることに合理性がないとまでいい切ることはできない。」をそれぞれ加える。

3  同一一枚目表二行目末尾の次に行を変えて「なお、控訴人は、わが国においては、形式上法人格を取得していても、実質上は個人と変わらないものが多いことからしても、課税上、個人と法人を区別する根拠はないと主張するが、控訴人が指摘するように、その実質が個人とさして変わらない法人が多いという実態があるとしても、寄付金支出に対する課税上の問題としては、むしろ、課税実務上は、法人の実態に即した課税がなされるべきであるとも考えられないではなく、控訴人の右主張は理由がない。」を加える。

二  そうすると、右と同旨の原判決は相当である。

よって、本件控訴を失当として棄却することとし、控訴費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 丹宗朝子 裁判官 松津節子 裁判官 原敏雄)

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